冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 予定がなければ、いつも土曜日は出勤している。

 しかし、その日にどうしてもしなければならない仕事というのは、別にカイトにはない。

 開発室に入るのだって、ほとんどが最前線好きという趣味のせいであって、義務があるわけではないのだ。

 ただ、彼が開発室に登場すると、スタッフは一気に緊張する。

 勿論、社長のお膝元で仕事をする―― その緊張感のせいもあるが、元々ここは彼が個人で開発したソフトから成り上がった会社だ。

 カイトのソフトのせいで、鋼南電気に就職や転職を決めたという連中ばかり、と言っても過言ではないようなスタッフの顔ぶれだった。

 そんなカルガモのヒナたちの前に、カイトが現れるのである。

 緊張が走らないハズがない。

 彼が開発室に入ると、他のスタッフの仕事の能率が上がるのは確かだった。
 これは、シュウの統計調査による結果であって、カイトが知っていることではなかったが。

 明日。

 ふっと何気なく、頭にカレンダーをよぎらせた。

 そして――

「あぁ、明日も…」

 出勤するぜ。

 言いかけた。

 そして、止まった。

 いま、引っかかったのだ。

 頭のピアノ線に。

 彼女が。

 メイが来て、初めての週末が訪れるのだ。

 いきなり、カイトはそれを意識してしまったのである。

 思えば、怒濤のウィークデイだった。

 月曜日のムカつく仕事の後、本当に気まぐれに入った店に彼女がいて。

 連れて帰って。

 最初怖がられたが、ようやくいまは慣れてきているようだ。

 しかし、慣れてきているのはメイの方であって、決してカイトではない。

 おかげで、毎日心臓に悪い思いばかりだった。

 その彼女は、いま一日中あの家にいる―― はずだ。

 もしかしたら、買い物に行ったりしているのかもしれないが、真実をカイトは知らない。

 出ているとしても、地理に詳しいワケはないので一人で行ってないだろう、くらいは予測がつく。

 ともあれ、土曜日もメイはあの家に一日いる。

 これまで一度も見たことのない、昼間の彼女がそこにいるのである。
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