冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは会社に行く。仕事をする。

 しかし、メイがその時間に何をしているのか、彼は知らなかった。
 平日はハルコが通ってくるので、一緒に家事をしているのかもしれない。

「すんな」と何度言っても、彼女は聞かなかった。

 今では、食事を一緒に取るのが当たり前の生活とでも思っているかのようである。

 メイは、昔の彼を知らないのだ。

 夜中に家に帰ってきて寝る。朝会社に行く。仕事する。何も考えずに適当に食べる。仕事する。仕事する。仕事する。食べる。仕事する。寝る。仕事する。仕事する。

 日曜日に――まとめて寝る。

 会社が忙しくない時ですら、カイトの生活はそんなものだった。

 別に仕事の虫というワケではない。
 趣味が、たまたま仕事と同じ名前を持っていただけなのだ。

 そのカイトが、だ。

 火曜日の取引はしょうがないとして、開発室の日に二日連続で定時にあがったのである。

 このとんでもない事実を、おそらくメイが知ることはないだろう。
 知られるワケにもいかなかった。

 早く帰っているということ自体にも、彼は不本意なのだ。

 いつものカイトは、一体どこに行ってしまったのか。

 うう。

 いま、自分が本当は何を考えようとしているのか半分は分かっていて、既にそれに眉を顰めているのである。

「社長?」

 怪訝な声に、呼びかけられた。

「るせぇ、黙ってろ」

 いま、カイトは考え事をしているのだ。

 その邪魔をするなという意味も込めて言った後、ハッとして顔を上げた。

 そこにシュウがいることすら、彼は失念していたのである。
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