冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ――!

 瞬間、身体が硬直してしまった。

 ぎゅっと目をつぶる。

 ドスドス。

 しかし、彼女のところで、足音は止まらなかった。

 メイは、まだ目を開けられないまま、足音が背中の方に消えたのを知るのだ。

 あ……れ?

 タオルを押さえたまま、メイは頭の中で何かが食い違ったことに気づいた。

 そっと目を開ける。

 視界の範囲に、彼の姿はなかった。

 慌てて振り返ってもない。

 彼は脱衣所の中に入って行ってしまったのである。

 開いたままのドアが、中でガタンゴトンと音がしているのを教えてくれた。

 あ……そうか。

 彼女は、少しほっとした。

 カイトは自分に、ではなくて、脱衣所の方に用があったのだ。

 でも、その理由なんて彼女が分かるハズもない。

 彼は―― すぐ怒鳴るような性格のようだが、怒鳴る理由も分からないし、説明もなく行動が唐突だ。

 メイの頭が思考停止している間に、いろんなコトが進んでしまうのである。

 そうして、彼女の予測をいつも裏切るのだ。

 これまで、何もかも裏切ってきた。

 次は何を裏切られるのかさえ、メイには分からないというのに。

 どうしたら……いいんだろう。

 暖かい部屋なのでカゼをひく、とかそういう心配はないのだが、タオル一つという心許ない格好でいるのは、とても落ち着かなかった。

 あの下着姿より落ち着かない。

 店では、同じような格好の人がたくさんいたし、仕事だったのだ。

 だが、ここでは彼と二人きりで、仕事でもないのだ―― 多分。

 あっ!

 はっとメイは、顔を上げた。

 茶色の目を大きく見開く。

 脱衣所には、彼女の脱いだ毛皮とか下着とかがまだ置きっぱなしだったを思い出したのだ。

 まさか、いきなりカイトが飛び込むとは思ってもいなかったから。

 彼女は慌てて、その扉の中をのぞき込んだ。

 どういう状況かなんて、そのときは全然考えてもいなかった。

 そして。

 また、目を見開くことになった。
< 35 / 911 >

この作品をシェア

pagetop