冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ここは廊下で、すぐそこには副社長が立っているのが現実だった。

 気がつけば、この2人の取締役が立ち止まっているおかげで、一般社員が遠巻きに彼らを見ていた。

 もしかしたら、この廊下を通りたいのだが、怪獣とロボットの横をすり抜ける勇気がないのかもしれない。

 チッとカイトは、忌々しい舌打ちをする。

 シュウに聞こえたって構わないくらいに、はっきりと。

 またも無様な姿を、さらけだしてしまった気分だ。

 限りなく腹が立つ。

 本当は、自分はこんな男ではないはずなのに。

 腹を立てながら、カイトは無言で彼の横をすり抜けた。

「社長?」

 返事なしの彼に、もう一度怪訝な呼びかけが飛ぶ。

 しかし、振り返ったりしなかった。

「出社したけりゃ、勝手にすりゃあいい。オレも勝手にするぜ」

 カイトは怒鳴り捨てる。

 クソッ。

 いつもなら、絶対に出社すると言っていたはずなのだ。

 何の予定もなければ、100%間違いなく。

 それなのに。


『好き』が―― まるで毒のように、カイトの身体を回っていく音がした。
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