冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●76
「何か珍しいものでもある?」

 ハルコにそう聞かれて、ようやくメイは視線を窓の外から横に移した。

 彼女の運転は、静かな安全なものだ。

 性格が出るというのなら、カイトの運転とはどういうものなんだろう、とちょっと彼女は考えてしまった。

 怖い考えになっただけだが。

「あ、いえ…道を覚えようと思って」

 視界に小さなスーパーや個人店みたいなのが、いくつか映る。

 この辺なら、歩いて買い物にも来られそうだった。

 しかし、まだまだ全然静かな地域だ。

「ああ、そうね…買い物に出たはいいけれど、帰れなくなったら困るものね」

 くすっとハルコが笑う。

 メイは、それには苦笑した。

 地理には自信がなかったのである。

 方向音痴というほどではないと思うけれども、知らない道を冒険することが少ないので、新しい道には緊張してしまうのだ。

「毎日、こうやって通ってらっしゃるんですね」

 改めて、しみじみと口にしてしまう。

 初めて来た時は夜中だった。

 だから、こんな風に周囲の景色を見ることも出来なかったし、もし明るかったとしても、そういう精神的余裕はなかっただろう。

「何? カイト君のこと?」

 ちらっと視線の端だけで、ハルコが聞いてくる。

「あ、いえ…ハルコさんです」

 ちょっと恥ずかしくなってうつむく。

 本当は、頭にカイトがよぎったのだが、それを正直に言えなかったのだ。

 素直に恥ずかしかったというのもあるけれども、彼への気持ちを知られるのも怖かった。

 ハルコに知られたら、いつかカイトに伝わってしまうかもしれないと思ったのだ。

 彼女は、カイトとメイの最初の事情を知らない。

 だからハルコにとっては、その気持ちはさして問題のないことかもしれなかった。

 しかし、メイにとっては大きすぎる問題だったのである。

 第一。

 カイトに――軽蔑されたくなかった。
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