冬うらら~猫と起爆スイッチ~

12/03 Fri.-2

□77
「あの…社長…」

「何だ!!」

 物言いたげな声に、反射的にカイトは怒鳴っていた。

 そして――ハッとした。

 開発室。

 仏頂面でカラッと椅子を回す。

 スタッフたちは全員仕事中で、そのうちの一人がディスクを持って近づいてきていたのだが、彼の一喝に飛び退いていた。

 他の連中も、何事かと遠巻きに彼らを見ている。

 カイトは苦虫を噛みつぶす。
 自分が、イライラしているのに気づいたのだ。

「すみません、お忙しいならまた後で…」

 いまは機嫌が悪いと踏んだのか、相手は逃げちらかそうとしていた。

「いいから…何だ」

 内心でクソッと呟きながら、カイトは間髪入れずに手を差し出す。

 ディスクを持って来た、ということは彼に見て欲しいものがあるのだ。

 いまの彼は、苛立っている自分に苛立っているという―― 非常に循環の悪い状態だった。

 不況が不況を呼んでいるようなものである。

「あ、はい!」

 その手が嬉しかったらしく、慌ててディスクが差し出される。

 カイトは、コンピュータの方に椅子を回しながら、ディスクを差し込んだ。

 いま作業しているデータを保存して終了すると、その中身を呼び出す。

「あの…その5番目のデータなんですけど…」

 後ろから、ディスクの中身について話しかけてきている声に合わせて、作業的に手を動かしはするものの、イライラは消えてはなくならなかった。

 仕事がうまくいっていないワケじゃない。

 納期が迫って、せっぱ詰まっているワケでもない。

 ネクタイ仕事が、緊急に入ったワケでもない。

 原因はただ一つ。

 コンピュータに常時表示されている、時計を見てしまったのだ。
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