冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 開発にノッている時は時間を忘れる。

 それは、カイトにとっては非常に有意義な時間だ。
 おかげで、はっと時計を見た時には、定時を過ぎていた。

 過ぎていた、と言っても6時15分というところだ。

 今日こそは定時に帰ってたまるか。

 カイトはそんな妙な足かせを、自分につけたのである。

 シュウとの廊下でのことも引っかかっていたし、少しは自分をコントロール出来なければならないとも思っていた。

 なのに、6時を過ぎただけで、こんなにイライラしてしまうのだ。

 心と身体が、また彼のプライドに逆らおうとしていた。

「ざけんな…」

 腹立ちまぎれに、そう呟いてしまう。
 すぐ後ろに人がいるのも忘れていた。また飛び退かれる。

 クソッ、クソッ、クソッ。

 持ってきたデータのルーチンは、後ろに立っているスタッフが自分で考えたのか、いまの開発とは関係のないものだった。

 定時を過ぎたから、見てもらってもいいと思ったのだろうか。

 だとしたら、オタクのわりには品行方正である。

 見たことのない新しいルーチン。
 それは、カイトの興味をそそった。

 しかし、一度我に返ってしまったいま、再びトランス状態に入るまで、かなりの時間が必要に思えた。

 このはっきりと自覚できるほどのイライラを、食い殺さなければならないのだから。

 ガタッ。

 まだ内心で毒づきながら、彼は立ち上がった。

「しゃ…社長?」

 ディスクを抜いて、持ち主に放り投げる。

 彼は、あからさまに落胆の色を見せた。

 このルーチンが、カイトにとって興味ないものだと判断されたかのような顔だ。

「サーバーエリアにぶちこんどけ」

 カイトは上着を掴みながら、忌々しく言った。

「はい?」

 うまく聞き取れなかったのか、動きを止めた社員に。

「家で見るから、サーバーにぶちこんどけっつってんだ!」

 カイトは――また怒鳴ってしまった。
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