冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ガンッッ!

 ガレージにバイクを止めると、ガンとスタンドを立てて。

 ブルゾンと手袋を放り投げ、ざくざくと玄関に向かった。

 大股で、肩をいからせて。

 何だってんだ、何だってんだ!

 いつの間に、自分はこんな身体になってしまったのか。

 非常にマズイ事態に、なお苛立ち続けた。

 カイトには、深夜までかかる納期前の仕事がある。

 出張しなければならない時だってあるのだ。
 家を空けることもあるのに、いまからこんな身体でどうするというのか。

 仕事に障ってしょうがなかった。

 だから、シュウの言葉がチクチク刺さるように聞こえるのだ。
 仕事に関係することで、決して手抜きを許さない男だからこそ。

 こんなに急いで帰りたくなる理由が、女なのだ。

 たとえ相手のことを好きだとしても、もう少し落ち着けないものなのかと心に詰め寄る。

 けれども、ワガママなカイトの心らしく、ガンとしてそういう意見を聞き入れなかった。

 だから、こんな状況が出来上がっているのだ。

 来週は。

 ぜってー。

 定時には。

 カイトは一歩踏みしめるごとに、自分に対してのカセを一語ずつ噛みしめた。

 少しでもコントロールしてから、以前の自分を取り戻そうと思ったのである。

 定時には。

 玄関のドアを開ける。

 いまの自分の決意を示すように、強い勢いでバターン!!―― と。

 帰ら…。

「おかえりなさい!」

 カイトは、最後の一歩を踏めなかった。

 それよりも先に、明るい声で迎え入れられてしまったからである。
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