冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 バシュッッ!

 頭の中で、一瞬フラッシュのような閃光がひらめいた。

 そのせいで、モヤモヤしていたものとか怒りとか何とかが、一瞬、全部消えてなくなったのだ。

 メイが、彼の帰りを嬉しそうに迎えてくれている。

 ただ、それを見ただけなのに。

 それだけなのに、カイトのカセも何もかもが一瞬吹っ飛んだのだ。

 腕が。

 自分の腕が、また彼女を抱きしめたがっている。

 ぐっとこの胸にかき抱いて、痛いくらいに抱きしめたがっているのだ。

 心の中で欠乏しているメイという人間を、いっぱいに満たしたい衝動が全身で荒れ狂う。

 腕が。

 このまま、あと3歩踏み出して、腕を伸ばして、捕まえて。

「今日はカレーなんですよ」

 しかし、カイトの衝動は――焼き切れた。

 笑顔の彼女が、夕食の献立を口にしてから、ダイニングの方に歩き出したからである。

「着替えたら、下りて来てくださいね」

 そう言って、昨日まではなかったエプロン姿で、メイは向こうの方に消えて行った。

 はっ…。

 カイトは頭を抱える。

 また、いま自分の理性とかがすっ飛んだのだ。

 たかが帰ってきただけで、彼女の顔を見ただけで、どれだけ自分がその存在に飢えているか思い知らされたのである。

 足りなかった。

 全然、メイが足りていないから、あんな衝動を覚えてしまうのだ。

 使い物にならないポンコツの理性だった。

 禅寺でしばらく修行でもしなければならないくらいだ。
 いや、それで治るとも思いにくい。

 しかし、ポンコツでもアナクロでもプロトタイプでもベータ版でも何でもいい。

 いまのカイトは、それでも理性が必要なのである。

 クソッ。

 とりあえず着替えて―― この衝撃も一緒に脱ぎ捨ててこなければ、もう一度彼女に会えそうになかった。
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