冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●78
 遅い…。

 メイは、保温プレートの上のカレー鍋をかきまぜながら不安になってきた。

 着替えているだろうカイトが、なかなか下りてこないからである。

 長い間一人でいると、もしかしてカレーはそんなに好きな献立ではなかったのだろうか、とか色々考えてしまう。

 でも、ハルコさんは一番好きな料理だって言ってたし…。

 もう一度呼びに行った方がいいかと思いかけた時、ようやくダイニングのドアが開いた。

 来た!

 メイは、ぱっと顔を輝かせて立ち上がった。

「いませんね…」

 しかし。

 ドアを開けたのはカイトではなかった。

 もう一人の住人、シュウだ。

 一歩踏み込むなり、中の様子をうかがう。
 視線は、ある人間の席を中心に移動していた。

 ここにカイトがいると踏んで来たに違いない。

 まさか彼が、カレーの匂いに誘われて―― なんてことは、どうしても考えられなかった。

「あの…多分、お部屋の方だと」

 気落ちしてまた鍋に戻りながら、メイはそう伝えた。

 その時。

「ああっ…」

 シュウが驚いた声をあげた。

 彼女も顔をそっちに向ける。

 見れば、シュウの身体がドアから引き剥がされているところだった。

「どけ」

 凄く不機嫌な一言と一緒に。

 あっ! あっ! あっ!!

 驚きの余り、おたまを落としてしまいそうだった。

 今度こそ、間違いなくカイトが登場したのである。

 シュウの身体が見えなくなった代わりに、カイトの姿が現れる。

 着替えを済ませたラフな格好だ。

 いつも通り、機嫌の低そうな顔でのご入場である。
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