冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 脱衣所の床には、引き出しの中のものがひっくり返されていたのである。

 タオルだの、シャツだの男物の下着だのが散乱していた。

 それでもまだ飽き足らないらしく、カイトは次の引き出しを引っぱり出すと、床の上で逆さまにして放り捨てるのだ。

 あ……何?

 頭が、またパニックになる。

 彼の行動が読めないせいだ。

 メイの着ていた毛皮は、もうその衣服の山の下の方に、ちらっと端だけしか見えていない状態だった。

「クソッ……」

 服の山をかき回しながら、カイトが舌打ちをする。

 また――怒ってる。

 いつも、彼は何かに怒ってるような気がした。
 それとも、メイが怒らせてしまっているのだろうか。

 分からないまま、まばたきもせずに彼の作業を見つめてしまう。

「しょうがねー……」

 はぁっと大きなため息をついて、カイトは山の中からシャツを掴み取った。

 その、顔が上がる。

 グレイの目が。

 自分を映した時――驚いたように、彼は時を止めた。

 まさか、メイに見られていると思わなかったのだろう。

 そのまま、しばらく硬直していて。

 視線は、彼女の顔の上で止まっている。

 自分の目の奥深くと覗かれているような気がして、慌てて目をそらした。

 すると、彼も我に返ったようで。

「ほら!」

 強い声に呼ばれて、またカイトの方を見なければならない。

 メイは、おそるおそる顔を上げた。

 その目の前には、水色のシャツが突き出されていたのだ。

 彼自体は、そっぽを向いた状態で。

 ひどい仏頂面だった。

「あの……」

 シャツを眺める。

 それから、カイトを。

「早く着ろ!」

 一秒でも耐えられないかのような早口で、それを言う。

 着ろって……。

 シャツを渡されてそう言われるということは、答えは一つだ。

 それくらい、メイにだって分かる。

 分からないのは、何故か、ということだ。

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