冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 よかったぁ。

 しかし、そんな表情など気にもならない。

 メイは心底ホッとした。

 夕食を食べる気がないワケではないのだ。
 何か気に入らないことを、したわけでも言ったわけでもなかったのである。

「先日の書類の件でお話が…開発室の方に連絡したら、もう帰られたとのことでしたから」

 シュウは乱暴に引き剥がされても、まったく怯む様子もなく、彼の背中に向かって仕事の話をし始めた。

「明日、会社でもよかったのですが、出社されるかどうかはっきり分かりませんでしたので」

 カイトは足を止めた。

 顎を向けて睨んだにもかかわらず、やっぱり怯む様子はない。

 ある意味、メイは尊敬してしまった。

 ソウマといいハルコといい、本当にカイトの周囲を固めているメンツは、まったくもって彼を怖がったりしないのだ。

 彼女だって最近は、怒鳴られても少しは怖くなくなってきたのである。

 最初からすると大進歩だ。

 シュウも、彼が睨んでいるのには気づいているようで。
 最後に一つため息をついてから、付け足した。

「…手短にすみますが」

 ほんの数分です。

 その言葉を聞いて、カイトはまた顔つきを険しくした。

 メイをちらっと振り返った後、しかし、彼はシュウと部屋を出て行ってしまう。

 あ。

 行ってしまった後ろ姿に、彼女は寂しさを覚えた。

 しょうがない、お仕事なのである。

 それに、数分で終わるというのだ。
 あのシュウという人がそう言うのなら、おそらく間違いはないのだろう。

 分かってはいるものの、寂しいという感情はそんな思考とは違う部分から溢れ出してくるのだ。止めようもなかった。

 とりあえず。

 また、保温プレートの上のカレーをかき混ぜた。
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