冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 来た!

 足音で分かったメイは、慌てて作業に取りかかった。

 ご飯をお皿によそい始める。

 白い湯気が、一斉に彼女の顔を襲ったが、そんなものに怯んでいるヒマはなかった。

 やっと食べてもらえるのだ。

 カレー鍋のフタを開けた時、カイトは再びダイニングに入ってきた。

 ガタンッ。

 カイトの方を見ずに作業をしていたメイは、その音に無意識ににっこり笑ってしまった。

 カレー鍋の黄色い水面を眺めて、である。

 それに自分の顔が映っていたら、きっと恥ずかしくなってしまっただろう。

 彼が席についてくれた―― イコール食べる意思を、はっきり示してくれただけで、自分はこんなにも幸せなのだ。

 あとは、怒鳴るような『うめー』という言葉さえあれば、メイは幸せになれる。

 カレーをたっぷりかけて、それから彼のテーブルまで運んだ。

 ちらっと表情を伺ったが、カイトはじーっとカレーを見ていた。
 訝しげに見えるのは、きっと彼女の心配しすぎだろう。

 やっぱり、食べてもらったことのない料理というのは、カレーであっても緊張するものなのだ。

 じっとカイトがカレーを見ている間に、引き続き慌てて自分の分を用意する。

 食事を一緒に取るというのが、こんな短期間で習慣づいてしまった。

 やっぱり、誰かと食べる方がおいしいに決まっている。

 カイトだって、誰かとの食事は嫌いではないのかもしれない。

 あのシュウでは食事を同席するとも思えず、だから彼この家で食事をほとんどしなかったのではないか、とか考え始めたくらいだ。

 彼女が席についたのが分かったのか、カイトはスプーンで、その黄色い高地を抉る。

 スプーンを持ちながらも、メイはじっと行く末を見守った。

 ぱくっ。

 口に運ぶまでに一呼吸あったのは、きっと昨日の肉じゃがのせい。

 そう思うと可愛く見えて、うっかり笑ってしまいそうになった。

 彼が好きなカレーなのだ。

 ここで合格点をもらえないと、かなりのマイナスポイントのように思えて、少し怖くなってきた。
< 361 / 911 >

この作品をシェア

pagetop