冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 じっと見つめる。

 カイトの口の中には、まだスプーン。

 そのまま、彼は数度まばたきをした。

 何もかも分からなくなりました、というようなほけっとした顔だ。

 スプーンが、口からカレーに戻った。

 一瞬、メイはそれに目を奪われた。

「うめぇ…」

 ぽろっと。

 そんな感じでこぼれた声。

 え?

 彼の指先から、ぱっと視線を上げる。
 その顔が、はっと我に返ったのが分かった。

 ふいっと横をむく顎。
 いま自分が言った言葉を、快く思っていない頬。

 わざと釣り上げた眉で、メイを威嚇するけれども、威力なんて全然なかった。

 うそ、うそー!!!

 合格どころではないセリフだった。

 怒鳴りなんかでコーティングされる前の、裸のカイトの声と表情だった。
 それを、カレーが引っぱり出してくれたのである。

 嬉しいどころの話ではなかった。

 一生懸命タマネギを炒めてよかった、とメイは手抜きしなかった自分を、ちょっとだけほめてあげる。

 嬉しさに引きずられて、彼女もカレーを口にする。

 あれ?

 まばたきをした。

 カイトと同じように、一瞬呆然としてしまったのだ。

 カレーが、おいしかった。

 自分が最初に味見をした時よりも、もっと。

 きっと――カイトが心からおいしいと言ってくれたから。


 魔法までかけてしまう人だった。
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