冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□79
 クソッ。

 カレーをがばがば口の中に突っ込みながら、カイトはまたもこんな汚い言葉を愛用していた。

 たったいま、自分がさぞやアホみたいなツラで、本音をこぼしてしまったことに気づいたからである。

 あと100回言っても足りないくらいだ。

 軽く言えるお世辞なんて、カイトは大嫌いだった。

 言うヤツも大嫌いである。

 甘い言葉も愛の言葉も―― 連呼する相手なんて、絶対信用にならない。
 ムカつくばかりだ。

 だから、そういう言葉を自分で言わないようにしてきた。

 それが子供の頃からの自分の中での決まり事だったので、すでにもう習慣というよりも、本能のように神経レベルまで染みついている。

 言葉じゃ、気持ちを伝えられないのだ。

 世の中には、本当の気持ちとやらを伝えるには、薄っぺらな言葉ばかりが存在している。

 連呼されて使い古されて、見るに耐えなくて。

 素直と称して、優しいと称して、うだつの上がらない言葉ばかりがもてはやされているのだ。

 だから、カイトは吠えてきた。

 木の上でさえずる代わりに、サバンナを駆けてきたのである。

 自分の持っている能力という牙で、噛みちぎりながらここまで来たのだ。

 見栄えこそ違え、シュウもそういう人種だった。
 だから一緒にやってこられたのである。

 なのに。

 メイという女が一人増えただけで、いきなり世界は変わったのだ。

 それどころか、自分すら変わってしまったように思える。

 誰だって言える、お世辞でも笑顔で言えるような言葉を、『うめぇ』を毎回言っているのだ。

 ひどい異常気象である。

 しかも、今日のうめぇは――違うのだ。

 いや、昨日までも確かにうまかった。
 けれどもこのカレーほど、一瞬意識を吹っ飛ばしたりしなかった。

 本当にうまかったのだ。
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