冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 昨日までとどう違うとか、こうおいしかったとか、頭の中にいろんな情報は渦巻いているのに、どれもこれも世辞くさく、一山いくらみたいに安っぽく、とてもカイトは口に出来なかった。

 そこらにいる、ナンパ野郎のようにはなれないのだ。

 なりたくない、というプライドのせいで、余計に口にロックがかかる。

 メイに表すことが出来るのは、このカレーを食べることだけ。

 マズかったら食わねぇ。

 嫌いだったら、絶対に同じ空間なんか共有しない。

 両方ともクリアしているからこそ、いまカイトは、ここで彼女と夕食を取っているのだ。

 けれども、きっとどう思っていようが、メイには分からないのである。

 また、分かられてはいけないことだった。

 ガタン。

 カイトは席を立った。

 メイが視界に入る。いきなり立ち上がった彼を、驚きの目で見ている。

 彼は、無言でジャーを開けようとした。

 皿の上は、もう空っぽなのだ。

「あっ! 私が!」

 慌てて立ち上がろうとする彼女を、ギロッと睨む。

 ビクッと動きを止めたのをいいことに、カイトはどんどんご飯をよそった。

 次はカレー鍋だ。

 黙々とカイトはカレーを食べ――もう一度、勝手におかわりをした。
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