冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 げふっ。

 調子に乗って食べ過ぎたのが分かる。

 しかし、求めたのは胃袋ではなく舌なのだ。
 本当においしかったのである。

 もう、あんなマヌケ顔で失言なんかはしなかったけれども。

 メイも、食べ終わって水を飲んでいた。

 しかし、女の食事がゆっくりだというのは、まったくもって本当だ。

 カイトが3杯を片付ける速さと、メイが1杯を片付ける速さが同じなのだからビックリする。

 とりあえず、カイトもグラスに口をつけた。

 食事ナシで静かな空気になると、落ち着かなくなってくる。

 うまく話す言葉も見つけられないのだ。

 カイトは立ち上がろうと思った。

 その気配を感じたのか、メイはぱっと視線を向ける。

 何だよ?

 ちょっと眉を顰めてそっちを見やる。

 内心は、ドキッとしていたけれども。

 朝食と夕食の時が、唯一の接点と言っても過言ではない現状だ。

 いろんな不自由とか希望とかも、彼女にはあるハズだった。

 メイの口が一回開いて―― また閉じた。

 頭の中で、言葉を整理しているような顔。

 苛立ったワケではない。

 しかし、また彼女が遠慮がちな言葉を口にするのではないかと思うと、落ちついていられなかったのだ。

 その度に、自分がバカになるのが分かるからだ。

 昨日のお金事件といい。

「あのっ…」

 ようやく、言葉がまとまったのか口を開く。

 カイトは視線だけで先を促した。

「あの…明日は会社に行かれるんでしょうか?」

「……!」

 質問に、思い切り心臓が跳ね上がった。
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