冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 昼間のシュウとのやりとりを、思い出してしまったからである。

 あの時、いろんな気持ちが巡ったのを、その気持ちとやらを思い出したのだ。

 まさかシュウが、さっきカイトが来る寸前に、余計なことを言ったのではないだろうかと勘ぐってしまいたくなるくらいだった。

「あいつから…何か言われたのか?」

 だから、眉を寄せながら聞く。

「え? あいつって?」

 しかし、メイの返答はきょとんとしたもので、彼はほっとした。

 会社のことを第一に考えている男とは言え、そういうことに首を突っ込むヤツではなかったようである。

「いや、何でもねぇ」

 となると、妙なことを聞いた自分が恥ずかしくなって、言葉尻を荒くしてしまった。

 テーブルを、指先で叩きながらそっぽを向く。

「いえ、お休みだったら起こさない方がいいでしょうし、朝ご飯とか…その…いろいろ」

 言いにくそうにメイは、それを口にした。

 ああ。

 言いたいことは分かった。
 言いにくい理由も分かった。

 カイトがそういうことに熱心になるのを、快く思っていないのは伝わっているのだ。

 怒鳴られるとでも思っているのだろう。

 彼は、横を向いたまま考えた。

 会社に出社すれば、今日とまったく同じ一日が繰り返されるのだ。

 朝起こしてもらい、朝食を食べて、ネクタイを結んでもらってバイクで出勤。

 しかし、それは同時に、彼女が早く起きなければならないということでもあった。

 出勤しなければ、ゆっくり寝ていられるのかもしれない。

 ったく。

 そういうポーズでふっと息を吐いて、カイトは頭をかいた。

 がたっと席を立ち上がる。

 そうして、背中を向けた。

「明日は…出勤しねぇ。朝メシもいらねぇ」

 そこまでは、予定通りだった。

 しかし。


 ゆっくり寝てろ――という言葉を、カイトは言うことができなかった。
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