冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□80
 カレー腹を抱えて、カイトは階段を登った。

 まだ、舌があのカレーの味を忘れない。

 胃袋の限界さえこなければ、もっと食べたかもしれない自分に呆れながら、寒い廊下から暖かい部屋に入ったのだった。

 明日は。

 さっきのメイとの会話を思い出した。

 明日は休みで。そして、明後日も。

 カイトが出かけたりしなければ、おそらくずっと同じ屋根の下にいるということである。

 同じ部屋を共有していた夜もあったが、あれは異常な世界だった。
 嵐のように荒れ狂って、眠れたもんじゃない。

 別の部屋になってからは、朝と夜の一瞬だけを共有していた。

 明日は。

 ずっと同じ家の空気を吸うということで。

 それを自覚すると、カイトは眉を顰めた。

 イヤなのではない。
 イヤでない感覚が、彼の調子を崩してしまったために、そんな顔になってしまったのだ。

 昼間のメイが、どういう風に過ごしているか、ついに知ることが出来るかもしれなかった。

 人がどんな人生を送ろうが、しったこっちゃない。

 個人主義のカイトには、人の活動なんか普通は興味がないものだ。

 しかし、彼女のことだけは気になってしまうのである。

 特に。

 人の目を盗んで、熱心に働いているのではないかという――かなり強い疑惑があった。

 それを思うと、物凄く腹が立つのだ。

『家政婦』なんて位置づけを、メイ自身が既にしているのではないかと思うと、すごくイヤだった。

 もし、そういう場面に遭遇したら、おそらく自分が怒鳴るだろうという自信もあった。

 この複雑な感触を、これまた彼女に伝える術がないのである。

 腐るほど、自分の苦手な言葉が横たわっているせいだ。

 それを一歩ずつ踏んでいけないカイトは、いつまでたってもメイと、まともな言葉を交わせそうになかった。

 と、こういう風に、ふと気づいたら彼女のことで頭がいっぱいになっている。
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