冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 どうして彼がシャツを貸してくれるのか――頭の中の符号と一致しないのである。

 しかし、このままでいるよりは余程よかった。

 おそるおそる、シャツを受け取る。

 すると。

 カイトは、この惨状もそのままに、脱衣所を出て行ったのである。

 入ってきた時と同じように、大股でドスドスと。

 強い力で、バターン! と、ドアが閉められた。

 そのひどい音に、彼女は身を竦める。

 えーっと……。

 メイは、持っているシャツと脱衣所の様子と、それから振り返ってドアを眺めた。

 と、とりあえず。

 急いで彼女はタオルを取るとシャツに袖を通した。ボタンを止める。

 ラフなシャツなので丈も長い。

 ただ、困ることは――生地がそんなに厚くはないので、どうしても身体のラインが気になるのだ。

 胸の辺りを引っ張ってみるが、手を離すと途端に恥ずかしい。

 や……やっぱり、あの下着!

 今日の仕事で使ったあれを探そうとした。

 でないと、恥ずかしくてやっぱり脱衣所から出ていけないような気がしたのだ。

 足元もすーすーするし。

 しかし、最後の引き出しをひっくり返されたせいで、すっかり服の山の下に埋もれてしまっている。

 ああ……片付けなきゃ。

 メイは膝をついて、とりあえず散乱しているシャツなんかを拾い始めた。

 父一人、娘一人だったのだ。

 食事や洗濯などの仕事は、全部彼女がやっていた。

 衣服を拾ってはたたみながら、メイはまだ混乱からは戻ってきていなかった。

 逆に、混乱している時に限って、いまは優先事項ではないことを、しかも細かくやり始めてしまうのである。

 おかげで、下着を探すつもりだった最優先項目を、彼女はすっかり忘れてしまった。

 でも……どうして?

 考えているのは、しかし、それだけだ。

 難問を渡されて、彼女の頭の中はグルグルと同じところを回り続けるトラになる。

 きっと、最後は――バターだ。

 バターになりながらも、メイは彼の服をたたんでいた。
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