冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 髪の毛を、ゴムで後ろでひとくくりにして。

「よし!」

 嬉しくなって、メイは鏡の中の自分を見た。
 これなら汚れても平気である。

 どんなことだって出来そうな気になってくる。

 確かに、彼女も年頃だから綺麗な格好をしている方が嬉しい。

 その気持ちは本当だ。

 でも、それだけを着て生活をするのは至難の業だ。

 自分がどういう方面で失敗するか、よく知っていたのである。
 よく知っていても、毎回防ぎきれない自分がはがゆいのだが。

 とにかくこの格好なら、床でも棚の上でも窓でも綺麗に磨き上げることだって可能なのである。

 まだ、朝は早い。

 きっとカイトは、遅くまで寝ているのではないかと思った。
 夜、一度目が覚めた時、廊下を歩くような足音が聞こえたから。

 随分夜更かしのようだった。

 だから、今の内ならいろんなことが出来そうな気がした。

 二階でバタバタすると、睡眠の邪魔をしてしまいそうなので、一階の調理場辺りから掃除を済ませようと思っていたのだ。

 メイは、そっと部屋を出て廊下を通った。

 足音を忍ばせて。

 しかし、トラブルが起きた。

 きゅるるっ。

 ちょうど、彼の部屋の前にさしかかった時、恥ずかしいことにおなかが鳴ったのだ。

 慌てて、キョロキョロしてしまう。

 いまので、カイトが起きてしまったのではないかと思ったのだ。

 そんなワケはなかったが。

 健康的な生活をしているせいか、おなかがちゃんとすいてしまうのである。

 掃除の前に朝ご飯をもらおうと、おなかを鳴らしてしまった自分に赤くなりながら、階段を降りていったのだった。

 昨夜の残りが、まだ結構あったはずだ。

 あ。

 そうして、幸せな記憶も一緒に甦る。

 昨夜の残り――すなわち、カレーなのだ。
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