冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 きっと、夜中にカレーをたいらげたのも。

 空になった鍋と、使った皿やスプーンを洗ったのも。

 そうして、その洗い方がこんなにやっつけ仕事なのも。

 どれもこれも、カイトそのものだった。

 おなかがすいたのだろう。
 カレーが残っていることを覚えていたのだろう。

 だから、ここまで来て食べて行ったのだ。

 カイトを想像する。

 普通の彼ならきっと、お皿を洗ったりしないだろう。

 鍋なんかもってのほかだ。

 けれども、それを片付けるのがメイだということを知っていたカイトは、きっと負担をかけまいと洗ってくれたのである。

 調理場にすすんで立って、綺麗にお皿を洗い上げる人とは思いにくい。

 きっと、ガチャガチャガシガシ洗ったのだ。
 よく手元も見ずに。

 だから、こんな洗い残しが生まれたのだろう。

 その時のカイトは、仏頂面だったに違いない。

 仏頂面だったに。

 いけない、いけない。

 顔のゆるむ自分を叱咤するけれども無理だ。

 寒い空気とは裏腹に、メイの身体の中も心の中も、どんどん温度が上がっていく。

 彼が。

 カイトが、夜中にここに来てまでカレーを。
 彼女の作ったカレーを食べたいと思ったのだ。

 それで、全部食べ尽くしてしまったのだ。
 結構残っていたのに。

「どうしよう…」

 どうもしなくてもいいというのに、メイは嬉しさの余りそんなことを呟いてしまった。

 こんなに彼女を幸せにしてくれたカレーなんて、生まれて初めてだ。

 昨日の夜から、魔法の連続である。

 自分が朝ご飯を食べるには、まずお米を砥がなければならないという事実にもまだ気づけずに、メイはその皿洗い失格作品をずーっと眺めてしまったのだった。
< 375 / 911 >

この作品をシェア

pagetop