冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□82
 むくり。

 朝10時ちょうど。

 カイトは、まるでからくり時計のように顔をあげた。

「うー…」

 重い頭を手で支えるようにしてうなる。

 寝ちまってたか。

 大きな手で、自分の顔を押さえつけるように撫でた。

 指先に力を込めて。

 ようやく、頭が少し働き始める。

 久しぶりに、机に突っ伏したまま眠ってしまったようだ。

 クリスマス合わせのゲームの納期以来か。

 ノートパソコンの電源は入れたままだったが、画面は宇宙空間になっていた。
 スクリーン・セイバーのせいである。

 言うことを効かない指を伸ばして、キーボードの上にバンと手を置く。

 別に押したいキーがあったワケではない。どれでもいいのだ。

 その動作で、ぱっと画面が呼び戻される。

 宇宙空間が終わり、宇宙ステーションが―― というワケではないが、最後に開いていた画面が現れた。

 アルファベットと記号のラレツ。

 昨日意識がすっ飛ぶ前まで扱っていた、新しいルーチンのソースのコピーである。

 これを改造していたら夜が明けた、ところまでは覚えていたのだが。

 暖房はつけっぱなしだったので、寒くてカゼをひくなんて心配はなかったけれども、やはり無理な姿勢で寝ていたせいか、首だの背中だのバキバキになっている。

「んぅ…」

 うなり声をまたあげながら、カイトは首を回した。

 淀んでいた血液が回り始めて、感覚が全部戻ってくる。

 ん?

 カイトは眉を顰めた。

 戻ってきた感覚の中に、味覚というものも入っていたのだ。

 口の中に、カレーの味が微かに残っていたのである。

 寝る気なんかなかったカイトは、歯磨きをしていなかったのだ。
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