冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カレー。

 思い出して、カイトはもう一段眉を寄せた。

 夜中。

 どうしても耐えきれずに、調理場に行ってしまったのである。

 夜遅くまで起きていたせいで空腹になったのだ。

 カレーが鍋に残っていたのは、ちゃんとカイトは覚えていた。

 しかし、誤算があった。

 一杯くらいなら食べてもバレないだろうと思っていたカイトは、しかし、食べ始めたら止まらなくなってしまったのだ。

 ハッ、と気づいたら、鍋は空っぽ。
 ジャーも空っぽ、という最悪の事態だったのである。

 朝起きてきたメイにバレてしまうのは必至だった。

 しかし、ないものを復活させることは、ゲームの中ならいざ知らず、現実社会に生きている彼には不可能なことであった。

 バレても知るか!

 ついにはそう開き直って、カイトはそこを出て行こうとしたが戻ってきた。

 食べ終わった皿だの鍋だのが、そのままだったのである。

 クソッ。

 何でオレが、皿なんざ。

 洗わなければならないのかと、悪態をつきながらも、カイトはじゃぶじゃぶ洗い始めた。

 しかし、カレーがこびりついていて、そのままでは綺麗にならない。

 そこらに置いてあった洗剤をぶっかけて、またじゃかじゃか洗う。

 イモを洗うのだって、普通の人はもっと丁寧にやるだろうが、彼はしょうがなくやっているに過ぎないのだ。

 そこまで気を回せるハズもなかった。

 汚れたまま置いていけば、メイがまた後かたづけをしなければならないのだ。

 こんな、冷たい水で。

 台所回りについて、まったく頓着したことがなかった。

 だから、ここの蛇口から水しか出ないということを知らなかったのである。

 ガスともつながってないし、湯沸かし器もないのだ。

 元々新築だったワケではない。

 一応、自分の生活する辺りは、いろいろ手を入れて改造はしたけれども、使うアテなどほとんどない調理場には何もしなかったのだ。
< 377 / 911 >

この作品をシェア

pagetop