冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□9
 おせぇ。

 カイトは、最初ノートパソコンの電源を入れた。

 こうして、パソコンの前に座って仕事をしているフリでもしておけば、彼女が着替えて出て来るまでには、荒れ狂っている何かもが、おさまるだろうと思ったのである。

 しかし、ネットワークにつないでみても、仕事の続きの画面を呼び出してみても、上の空で、意識の矢印は全て脱衣所のドアに向かっていた。

 なのに、10分たっても、15分たっても、ドアが開く気配がない。

 いくらなんでも、あのシャツを着るのにそんなに時間がかかるはずがなかった。

 おせぇ!

 がたっとイスから立ち上がる。

 何かあったんではないかという不安と――大体、こういう不安を覚えるところで、更に彼は苛立つのだ。

 何をしても、どう考えても、どれもこれも本当に自分らしくない。

 しかし、こらえきれずに脱衣所のドアの前まで行く。

 あー……うー……。

 そうして、カイトは気づくのだ。だから唸った。

 このドアを開けるための言葉を、何も持っていないのだ。

 もしも、中でまだ着替え中だったら。

 裸同然の姿を店で見たとは言え、いまはまたケースが違うのだ。

 うーーー。

 動物のようなうなり声を内心で立てながら、けれども、もう我慢できなかった。

 何やってんだ!

「おい……!」

 ガチャ!

 考えることを放棄した途端、身体が動いていた。

 遠慮会釈もなく、勢いよくドアを開けたのだ。

 へ?

 そこには――信じられない光景が広がっていた。

 彼女は床に座っていて。

 肩越しに振り返っている。

 驚いた顔だ。

 その身体は裸ではなく、カイトが渡したシャツで。

 すっかり着替えは終わっていた。

 しかし、問題は。

 問題は、メイの手に持っているものだ。
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