冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あ、あの! お…はようございます!」

 大丈夫大丈夫と、ドキンドキンと早鐘を打つ心臓を騙しながら、勇気を振り絞って挨拶をし、彼を見た。

 視線が。

 カイトの視線が、眉を寄せたまま上から下に、下から上に彼女を舐める。

 怪訝と不機嫌の表情のまま、ジロジロと観察されるのだ。

 メイにしてみれば、たまらない。

 彼の視線は普通でも強いのに、いつもよりももっと強いレーザーみたいな目だったのだ。

 しかし、その表情が思い切り歪んだ。

 怒鳴る寸前見たいな表情に、自分が地雷を踏んだことに気づいたのだ。

 やっぱり、この格好がお気に召さなかったのだ。

 手が、伸びてくる。

 あっ!

 メイは声を出せなかった。

 カイトの手が伸びて。

 視線でそれを追いかけるよりも先に、自分の手に強い力がかかったのが分かった。

 雑巾が奪い取られたのである。

「すんなっつってんだろ!」

 怒鳴り声つきだ。

 奪われた雑巾を、ようやく視線で追うことが出来た。

 それは不規則な軌跡を描いて、壁にべちゃっと張り付いて落ちる。

 カイトが投げつけたのだ。

「あっ…でも!」

 とにかく言い訳をしようとした。

 掃除をしていただけなのだ。

 どうしてそんなに怒るのか、今日こそはちゃんと聞こうと思っていたのいである。

 カイトが優しいのは分かるけれども、掃除をしたくらいでここまで怒るのは、彼女にだって普通じゃないと分かるのだ。

 理由はちっとも教えてくれないのである。
 いま怒ってる裏に、本当にこめられている気持ちが知りたかった。

 なかなかそれを見せてくれないから―― メイは、いまのカイトを翻訳したかったのでだ。

 しかし、次の瞬間はすでに手首を掴まれていた。

「…!」

 びゅんっと、脚が一瞬宙に浮いてしまうんじゃないかと思うくらいの強い力で引っ張られた。

 そのまま、ぐいぐいと引っ張られていく。
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