冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あっ…あのっ! あの…!!」

 見えるのはカイトの背中だ。

 明らかに怒っている。
 どう見ても怒っている。

 もうメイの方なんか振り返る様子もなく、強い力だけで連れていかれてしまうのだ。

 ちょっとでも、脚を止めようものなら転んでしまいそうな勢いで廊下に連れ出され、階段に差し掛かり、もつれる足で何とか階段をついていった。

 どこに。

 どこに連れて…。

 カイトの部屋の前に来る。

 一瞬、そこかと思ったけれども、彼は素通りして行った。

 止まったのは――メイの寝起きする客間の前だった。

 そこでようやく足を休めることの出来た彼女は、弾んだ息を整えるヒマもなく、彼がまったくもって不躾にドアを開けたのを知ったのだった。

 うそ。

 メイは、びっくりした。

 カイトが彼女の部屋に入っていくのだ。自分を連れたまま。

 どうして、この部屋に。

 そう考えても、分かるハズもない。

 連れ込まれるなり、手が離される。

 踵を返したカイトは、バン! と乱暴にドアを閉めて振り返った。

 灰色の、目。

 射すくめられて、メイは身動きが出来なかった。

 一言でもしゃべったら、その色の中に飲み込まれてしまいそうだったのだ。

 死刑宣告のように、怒鳴りを押し殺した声が言った。

「脱げ」――と。

 あ…。

 メイは、まばたきが一回出来た。

 その後、二度、三度と繰り返すことが出来た。

 まぶたでシャッターを切るように、いま目の前で怒っているカイトを焼き付けていく。

 彼は何を言っているのか、いや、それは分かっていた。

 服を。

 脱げ、と言っているのだ。

 この人の前で、服を。
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