冬うらら~猫と起爆スイッチ~
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 メイが――床にはいつくばっていた。

 それを見つけた瞬間のカイトの気持ちなんて、きっと誰も理解できないだろう。

 ひとつに縛ってある黒髪からこぼれおちている数本が、床を舐めるくらいの距離で、彼女は懸命に床と格闘していた。

 ドクン。

 押し殺していた。

 ドクン。

 彼女への気持ちにキレツが入る。

 イヤだ。

 カイトが、初めて荒れ狂うほど好きになった女が。

 床にはいつくばって。

 メイの視線が止まる。

 カイトの方で。

 すこしずつ上がってくる茶色の目。

 自分を映した。

 イヤだ。

 慌てて立ち上がる動作。

 汚れた服。いや、汚れても平気な服だ。

 カイトが、これまで見たこともない彼女の姿。

 この服を。

 メイは買ったのだ。

 カイトが用意させた服よりも。

 この服を、彼女が自分で選んだのだ。

 メイが、自分で選ぶのは―― カイトではないのだと、叩きつけられたような衝撃。

 雑巾を奪い取る。

 投げつける。

 怒鳴る。

 引っ張る。

 どうして。

 どうして、ほんの少しでも彼女を思い通りに出来ないのか。

 こんなに欲しくてしょうがない気持ちを、こんなに押さえつけているというのに、どうして洋服一つままならないのか。

 薄汚れさせるために連れてきたのではない。

 こんな掃除をさせるためでもないし、料理を作らせるためでもない。床にはいつくばらせるためでもないのだ。

 カイトが用意したものに、全部彼女は横を向いてしまうのか。
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