冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 イヤなのか。

 何でイヤなんだよ。

 廊下に出る、階段を上がる。また廊下を歩く。

 ドアの前で足を止める。

 ドアを開ける。中に引っ張り込む、ドアを閉めて振り返る。

 そして言った。

「脱げ」

 脱げ! んな服、とっとと脱げ!

 心の中には、もっと強い悲鳴が隠されていた。

 けれども、カイトはその炎の一部を、唇の内側からひらめかせただけに押さえた。

 まだ身体のどこかが、メイにセーフティをかけているのだ。

 忌々しいことに、彼女に嫌われたくないという気持ちの石が、胸の中で光っていたのである。

 だから、そんな悲鳴を押し殺せた。

 メイが、自分を見た。

 何度か瞬きをしながら、でもじっと見つめるのだ。

 一瞬、茶色の目の中が揺れた。

 その次の瞬間、彼女は背中を向けて―― トレーナーに指をかけた。

 カイトは、ばっと後ろを向いた。

 その向いた先にあったものに気づく。

 そこへ近寄って、許可もなく勝手に開けた。

 普通なら、失礼どころの話ではない。

 たとえ、ここが彼の家であって、彼女に貸しているだけの部屋であったとしても、かなり酷いことをしたのだ。

 女性の――クローゼットを、勝手に開けたのである。

 洋服がぶらさがっていた。

 見たこともないのもあったが、多分、どれもハルコが買ってきたものに違いない。

 カイトは、何でもいいから勝手に掴みだした。

 どれとどれをどう組み合わせて着るかなんか知らないし、考えてもいない。

 とにかく、手当たり次第に掴んだのだ。

 あの忌々しい服は捨てて、彼女を綺麗にしたかった。

 いや、いまのメイが綺麗じゃないというワケではない。

 でも、イヤなのだ。

 あの格好をしている限り、カイトの近寄れないバリアが張ってあるような気がした。

 彼以外を選び続けるメイが、見えるような気がしたのだ。

 適当に掴みだした服を持って―― しかし、カイトは彼女の方を見てしまった。
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