冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「き、着ろ!」

 彼女の方に近付きながら、でも、見ないようにしながらカイトは服の山を押しつけた。

 素肌の腕がそれを驚いたように受け取ったのを確認すると、足元に落ちている彼女が脱いだばかりのジーンズとトレーナーをひったくる。

 すぐ側に、素肌の脚があるのが、イヤでも分かる。

 見ないようにしても、気配でも分かるのだ。

 クソッ!

 忌々しい服をひったくるやいなや、カイトは、物凄い勢いでその部屋から逃げ出した。

 あと一秒だって、同じ空間にはいられそうになかったのだ。

 バタン!

 後ろ手で、彼女の部屋のドアを閉ざす。

 自分の肩が、カイトに許可なく上下する。気づいたら、かなりゼイゼイと息があがっていた。

 何度心の中で自分をなじっても、全然心臓は落ち着かなかった。

 本当にメイを前にすると、自分がどうなってしまうか分からないのだ。

 今日だって、本当は危なかったのかもしれない。

 心の中にセーフティのかけらが残っていたから、まだ良かったのだ。

 あのかけらが、ぶっ壊れたら。

 しかし、カイトは頭を左右に振った。

 そんなことはねぇ、絶対ねぇ、と自分に言い聞かせたのだ。

 彼女を失うことなんか、シミュレーションでも考えたくなかった。

 カイトは、自分を奮い立たせるために、わざとドスドスと大きな足音を立てて、その部屋から離れた。

 途中にあるゴミ箱の中に、あの洋服を突っ込んで。

「オレの…」

 自分の部屋の中に入った。

 ドアを閉ざす。


 オレの言うことを――――クソッ!
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