冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●85
 ほけっ。

 たくさんの服を胸に抱いたまま、メイは遠ざかっていくゴジラの足音を聞いた。

 えっと。

 意味が分からなくて、そのまましばらくその格好でいたのだが、ぶるっと身体が勝手に震えたのでようやく分かった。

 服…。

 メイは、抱いていた服をそっとベッドに下ろした。

 どれもクローゼットに入っていたものだ。見ると、まだクローゼットの口は開いたままである。

 いくらか服が下に落ちているのが分かった。

 ゴジラが暴れたせいだ。

 後ろで物音がしたのは知っているが、自分が脱ぐ恥ずかしさと悲しさに精一杯で、他のことに意識を向けているヒマがなかったのである。

 だから、カイトが何をしていたのかすら知らなかった。

 服…。

 もう一度それを呟いて見つめる。

 めちゃくちゃな取り合わせだ。

 いや、というよりもスカートばかりである。上に着るものがなかったのである。

 かろうじて着れそうなのが、一番最初に着たあの白いワンピースだった。

 初めて普通の姿で、カイトの前に現れた時の服。

 それまでは、ひどい姿ばかりを彼に見せていた。

 下着姿にバスタオル。

 それから、パジャマがわりに借りたシャツ。

「ふっ…」

 ワンピースの上に、一粒シミが出来た。

 メイは、慌てて目をこすった。

 涙が溢れて来たのだ。

 よかった、と。

 カイトは、彼女の心を傷つけたりしなかったのだ。
 そんな人ではなかったのだ。

 ただ、メイにあんな仕事をさせたくなかったのだ。

 あの服がある限り、彼女がそれをやめないと思ったのだ。
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