冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「うわっ! 何やってやがんだ!!!」

 カイトは、だっと足を踏み込むなり、彼女の手からそれを奪った。

 メイは、彼女は、カイトの下着を持っていたのである。

 黒いビキニブリーフ。

 奪い取るなり、それを後方に投げ捨てる。

 何かまくしたてようとするのだが、あんまりビックリしたものだから、カイトはパクパクと口を動かすしか出来ない。

 頭にかぁっと血が集まる。

 見れば、彼女の横では同じように、彼の下着やシャツがたたまれて、ご丁寧に分類までされて積まれているのだ。

 この女は!

 着替えろとしか言っていないにも関わらず、彼が散らかした衣服を片付けていたのである。

 だから、あんなに時間がかかったのだ。

「す……すみません……つい」

 明日困られると思って。

 怒られたと思ったのだろう。
 いや、実際それと大差はないのだが。

 彼女は座ったまま、うつむいた。

 自分のシャツを引っ張るようにして猫背になる。

「誰がしろと頼んだ……しなくていーんだよ、んなのは!」

 いつまでここにいる気だ。

 カイトは、頭に血が昇っている。

 怒った、というよりも、彼の下着を扱われた恥ずかしさの方が先走っている。

 とにかく、この事実を忘れるためには、はやくこの脱衣所から出ていくしかない。

 勿論、メイを置いていくワケにもいかなかった。

 続きの仕事などされてはたまらないからである。

 座り込んだままの二の腕をグイッと掴んで立たせようとした。

 彼女の身体が、瞬間的に硬直したのに気づく。

 手のひらは、それを知ったのだ。

 慌てて離す。

 いま。

 メイの体温を、シャツごしにだけれども感じた。

 抱きしめた時に、気づけなかったものの破片のようだった。

 破片でも何でも――とにかく、カイトの手は彼女を覚えてしまったのだ。
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