冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 だから。

 だから、ジーンズとトレーナーを持って行ってしまったのである。

 もっと。

 涙を拭く。

 もっと、彼を信じなきゃ。

 言葉は足りない、すぐ怒鳴る、強引な行動に出る。

 異星人に出会ったというよりは、やはり肉食獣と出会ったような気分だ。

 食い殺される、食い殺される、とビクビクしていたが、獣はメイを決して食べたりしなかった。

 獣なりに優しくしてくれているのだが、相手は鋭い爪と牙と強い体を持っている。

 だからちょっとした行動でも、彼女を吹っ飛ばしてしまうのだ。

 そして、伝えたいことは吠えるか行動を起こすしか出来ない―― それが、カイトという獣。

 一緒にいるには、彼のことを信じるしかないのだ。

 決して、自分を傷つけたりしないのだと。

 テリトリーとポリシーはかなり強いから、人である彼女の作法とはすれ違ったりぶつかったりはするけれども、それはメイを殺そうと思ってやっていることではないのだと。

 ごしごし。

 目を拭いて、メイはのろのろとした動きで、スリップを拾い上げた。

 早合点して、自分が脱いでしまったものだ。

 脚を通す。

 そして。

 あの服を――着た。
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