冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 着たら、することがなくなった。

 とりあえず顔を洗ったけれども、泣いたという顔がすぐに分かってしまって、薄く化粧をする。これで分からないだろうか。

 鏡の前で、ふぅとためいきをつく。

 今更、また調理場に戻って、掃除の続きをする気にはなれなかった。

 この白いワンピースでは、絶対に床に膝はつけないし、それにあんなに怒った目をされてから間もあけずに、もう一度チャレンジなんて出来そうになかったのだ。

 カイトが仕事に行っている時にでも掃除をしようと思って、でも、あの雑巾だけは片付けておこうと思って、メイは廊下に出た。

 壁から落ちた雑巾と、あとバケツと―― それだけを片付けたら、おとなしく部屋にいよう。

 別に、することはなかったけれども。

 そうなのだ。

 2階の廊下を歩きながら、メイは思った。

 仕事を奪われたら、彼女はこの家ですることがなくなってしまうのだ。

 あ。

 カイトの部屋の前で、ふと足を止める。

 ご飯――どうしよう。

 もうすぐお昼だ。

 昨夜、カイトが夜食でカレーを食べたからといって、おなかがすかないはずがない。

 作るのは全然構わないのだけれども、さっきがさっきだっただけに、すごくやりづらいことだった。

 まだ。

 怒っているのかな。

 ドアをじっとみる。

 とりあえずは、メイはまた歩き始めた、その足をふと止める。

 そこにはゴミ箱があった。

 ハルコいわく、『男だけが住んでる家にはたくさんゴミ箱がいるのよ』だそうだ。

 とにかく、手近にゴミ箱がなければ、平気でその辺にゴミを転がしかねないと言うのである。

 シュウという人はともかく、カイトは確かにそうかもしれなかった。

 とにかく、そのゴミ箱の口から、ジーンズの裾がこぼれていたのだ。
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