冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 どれだけ緊張して、そこにメイが現れるのを待っていたか、この唐変木には一生伝わらないだろう。

 思い切り、彼は読みを外してしまったのだ。

 まさか、もう帰って来ているとは。

 車の音に意識を向けていなかったのが、カイトの敗因である。

「どうかしましたか?」

 実際、椅子から転げ落ちはしなかったものの、随分と驚いた顔でもしていたのだろう。

 シュウが不思議そうに聞いてくる。

「んでもねぇ…何の用だ」

 カイトは、くるっと背中を向けた。

 またディスプレイの方に視線をやって、どうでもいいようなプログラムの入力を始める。

 いまの自分の心を、このロボットに知られないためだ。

 彼女が来ることを予測していたなんて―― そのために、思い切り神経を使っていたなんて。

「ええ、先日の…」

 土曜日の真っ昼間だというのに、また仕事の話が始まる。

 仏頂面で、さして資料に目をやりもせずに、カイトはプログラミングで忙しいというオーラを出し続けた。

 言葉短く、持ってこられた仕事に指示を出す。

「分かりました…それでは、その方向で仕事を進めて置きます」

 シュウは、プログラムには興味はない。

 その方面の勉強はしていないのだ。
 だから、内容について何もコメントを挟んできたりはしなかった。

 ちなみに、副社長が自社で開発したゲームをやっているところは、一度たりとも見たことはない。
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