冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 また、彼女との距離が遠くなってしまったような気がした。

 せっかく、ここまで少しずつ縮まってきたような気がしたのに。

 それに。

 今日は土曜日なのだ。

 カイトは休みなのである。

 彼が仕事に行っている間にも、家政婦まがいのことをしているに違いないメイだって休めばいいのだ。

 こんな日まで、掃除だの食事だのそんなことを考えなくても。

「作んな」

 カイトは一言で終わった。

 椅子から立ち上がる。

 そのまま、ソファの方へと向かった。

「あ、でも…おなかすいて…」

 気を変えさせようとするかのように、一生懸命メイは訴えてくる。

 ソファに近付いて、その背もたれにかけていたブルゾンをひっつかんだ。

「外で食う」

 ばっと羽織って袖を通す。

 ジーンズの尻ポケットにサイフをねじ込んだ。

「えっ!」

 ひどく驚いた声で―― しかし、表情はもうこの世の終わりの色をしていた。

 メイは、まるで捨てられた動物みたいだった。

 そんな目で、カイトを追うのだ。

 メシを作るのが、おめーの価値じゃねぇんだよ!

 何てツラしてんだと、カイトの方が苦しくなる。

 たかが外食をするという発言をしたくらいで、どうして世界を終わらせようとするのか。

「あの…」

 近づいてくる彼に、目で必死に訴えてくる。

 その真ん前で、カイトは足を止めた。

 うまく彼女が見られないまま、斜め下の方へと視線を落とす。

「もう…今日のおめーの仕事とやらはナシだ…何もすんな」

 掃除も、食事の支度も後かたづけも、それ以外も。

 労働と名の付くものは、全部終わりだと最後通告を突きつけるのである。

 ここまで言わなければ、また絶対に彼女はしてしまうのだ。

 さっきのさっきであるにも関わらず、彼の食事の心配までしてくるのだから。
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