冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「待て、コラ!」

 カイトは、その水を止めさせた。

「はい?」

 いきなりストップをさせられると思っていなかったらしく、キョトンとした目がカイトに向けられる。

 ケバイ化粧の仮面が、一瞬はずれたかのように見えた。

 おびえもない、ひどく素直な表情だったからだ。

「おめーが作ろうとしてんのは、水割りなのかよ……マジで」

 クックック。

 カイトは肩を震わせた。

 グラスに半分もウィスキーを入れて、それを水で割ってどうしようというのか。

 指一本か、二本分でやめとけ、というところだった。

「え……あ……私、間違えました?」

 彼女の目が落ち着かなく泳ぐ。

「ああもう……ロックでいいぜ」

 笑いを我慢しながら、カイトはグラスを奪った。

 取った拍子に、カランとグラスが回って。

 カイトは、ようやく一杯目の酒にありつけたのである。

 水差しを持ったまま――茶色の目が、どうしたらいいか分からないかのように、カイトをじーっと見ていた。

「ん? おめーも飲むか?」

 カイトは自分のグラスの氷をカラカラ言わせた。

 すると、彼女は思いきりブンブンと首を横に振ったのだ。

 とんでもない、と言わんばかりに。

 うーん。

 カイトは半目になりながら、グラスを置いた。

 ポケットからタバコを出す。

 何で、こんな女がこんなトコロで働いてんだ?

 そう疑問に思いながら、タバコをくわえる。

 口で、タバコの先を上下させながら――しかし、ちっとも火がつかない。

 カイトは、隣を見た。

 彼女は。

 まだ水差しを持ったまま、じーっと彼を見ていた。

 次に何をしたらいいか分からないかのような茶色の目。
 化粧で化けられないその目が、ただ、彼を見ていたのである。

「ぶっ……」

 カイトは吹き出した。

 吹き出した拍子に、くわえていたタバコが落ちたが気にもしなかった。

「ぶわっはっはー!!」

 肺に思い切り空気を入れて。

 カイトは大爆笑していた。
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