冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何だ……今の。

 手を見る。

 まだ、覚えている。

 手が、メイを覚えている。

 違う。

 カイトは、頭を振った。

 それどころか、手に一気に血が集まっているかのように熱くなってきたのだ。

 いや、本当は――手だけじゃなかった。

 ランパブで、ウィスキーを一気した後と同じ熱が、いやそれ以上の熱が身体に回ったのだ。

 いまごろ……酔っちまったのか?

 ありえないことを思いながら、けれども、そう思わずにはいられなかった。

 ただ、分かったことがあった。

 この女に――さわれねぇ。

 触ったら、ヤバイ気がした。

 頭の中の信号が、エラー・ステータスを返してくるが、そのエラー内容はこれまで彼が見たことのない番号だった。

 なのに。

 なのに、まだ手がさっきの彼女の感触を忘れないのである。

 彼は、その手で自分の顎を掴んで、違う感触にすり替えてしまおうとした。

 けれども、自分のものとは違う熱が、まだしつこく手にかぶっている。

 メイはうつむいたままだ。

 頭の上で、彼がどんな葛藤をしているかなんて、知りもしないのである。

 奥歯を強く噛んだ。

 強く噛んでいないと、信じられないことに、また彼女に触ってしまいそうだった。

 ヤバイと、ちゃんと自覚したにも関わらず。

 目をそらして、ゆっくりと顎を緩める。

 息をつく。

 自分を落ちつかせようとした。

 女一人に、何をワケの分からない状態になっているんだ、オレは――催眠術のようにそう繰り返し言い聞かせる。

 そうして、少しだけ落ち着けた。

「……もう……しねーでいいから……来い」

 カイトは、できるだけ静かにそう言った。
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