冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「……は…い」

 ひどく震えた声を、彼女が出した。

 きっと、彼が怒ったように腕を掴んだせいだ。

 それで、怖くなったに違いない。

 カイトはそう思った。

 ズキズキッ。

 怖がらせるつもりなどなかった。

 ただ、彼女にそんなことはしなくていい、と。

 そう伝えたかっただけなのだ。

 そのために連れてきたのではないのだから。

 しかし、言葉や態度のフォローを何一つ自分で出来ないまま、カイトは彼女がゆっくりと立ち上がるのを見ていた。

 水色のシャツから伸びる脚。

 下の方を見ないように、カイトは視線を上げた。

 しかし、そこからも彼は目をそらさなければならないのだ。

 シャツは、女の素肌には薄すぎたのである。

 クソッ。

 今更、他のシャツを探せる余裕もなく、メイを見ないようにするので精一杯だった。

 くるっと背中を向ける、というのが一番てっとり早く、彼はそうした。

 脚を振り出すようにして、脱衣所を先に出る。

 後ろから静かな足音が続いた。

 カイトが、止まる。
 後ろの足音も止まる。

 カイトが歩く。
 後ろの足音も歩く。

 また止まる。
 後ろも止まる。

 きっと、そんなに遠くない距離。

 そこに――さっき触れた彼女がいる。

 薄いシャツ一枚で。

 しかし、振り返れないのだ。

 振り返ったら、また彼女の身体を見てしまうのだから。

 下着姿でもタオル姿でも、結局シャツの姿でも。

 どれも、全然ダメだった。

 彼女の役に立つようなものが、何一つないのだ。ここには。


 一番簡単な方法がある。

 彼女を追い出すことだ。
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