冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 待て。

 意味は分からないが、イヤな予感がする。

 まったく自分の意図していない方向に、話が進んでいるような気がするのだ。

「明日から…もっとおいしいご飯を作れるように頑張ります」

 ぽつっ。


 ま、待てー!!!!


 カイトは目を見開いた。

 イヤな予感的中である。とんでもない話になってしまった。

 明日から…もっと…何だと?

 イヤ、分かった。
 もう分かった。
 繰り返すまでもない。

 いままでの彼女の料理に、不満を抱いている―― そう思われたのだ。

 だから、本当においしいものを食べさせることで、それを暗に示そうとしたのだと。

『分かった』などと言っているが、全然分かっちゃいなかった。

 とんでもない濡れ衣である。

 あの料亭の料理の味を、カイトはマズイと思ったのだ。メイの料理に比べたら。

 そんな彼に向かって、何ということを言うのか。

 きゅーっと、頭の中の温度メーターが急騰する。

「おいしいご飯を作れるようになりますから…だから、何もするななんて言わないで下さい」

 ヤメロ。

 もう、何も言うな。

 クソッ。

 バカヤロウ。

 何で分かんねーんだ。オレがこんなに!

「オレぁ!」

 カイトは、車内で大きな声を張り上げた。

 わんっ、と反響するくらいに。
 彼女の身体が、ビクッとそれに反応して。

「今日の夕メシほどマズイと思ったもんはねぇ! もう、二度とあの店には行かねぇ!」

 一息で怒鳴る。

 語尾の二つの「ねぇ」に、一番強く力を込めて跳ね上げる。
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