冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●90
 おみそ汁?

 メイは、彼がそれにどういう意味を込めたのか、分からなかった。

 これまでの話の流れと、国語的な意味合いと、そうしてカイトという名前の中に押し込んである、特殊な辞書が絡み合っている。

 その糸と、格闘しなければならなかった。

 料亭で食べた料理は、とても綺麗でおいしかった。

 ああいう料理を、テレビ以外で見たのは初めてだというくらい凄くて。

 こんなものを、当たり前のように食べているカイトの舌は、とても肥えているのだろうと思った。

 だから、メイの料理を求めてはいないのだと。

 思ったら、またあの家にいる理由を失ってしまいそうで不安になったのだ。

 しかし、フタを開けてみたら―― カイトは、あの料理がマズイなどと言い出した。

 彼女の感想を、ムキになって否定するのだ。

 味覚の感じ方がそんなにも違うんだろうかと、それはそれで心配になる。

 メイは、自分で味見をして料理を作っているのだ。

 だから、おいしいの基準が違うとなると、別の不安が押し寄せてくるのである。

 彼においしいと思ってもらう料理を、どう作ればいいのか分からないからだ。

 なのにいきなり。

 何で、いきなりおみそ汁の話を。

 余計に混乱しながら、彼女は助手席で一生懸命考えた。

 車がどこを走っているのか、頭に入らなかった。

 それ以前に、たとえ見知った道であったとしても、外は真っ暗だ。

 昼間と違う顔をしている町並みは、慣れない彼女に判別出来るハズもなかった。

 でも。

 分かったことはあった。

 料理をリクエストされたのは、これが初めてだった、ということだ。

 いつも彼女が用意したものを、文句も言わずに食べてくれる。

 それの繰り返し。

 何を作れとか、どうしろとか言われたことは一度だってなかった。
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