冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「すんな!」と言う言葉は、いっぱいもらった。

 今日だって、料理を作るなと言われたのだ。

 そんなカイトが、言ったのだ。

『昼メシは…ミソ汁だけでいい』、と。

 それは、ミソ汁以外は食べたくないということなのだろうか。

 ミソ汁以外おいしくないってこと―― ううん!

 メイは、ぷるっと頭を左右に振る。

 後ろ向きにならずに、ちゃんと彼の言った意味を理解したかった。
 簡単に結びつけた言葉は、これまでどれもこれも外れてきたのだ。

 自分に都合のいい解釈は出来ないけれども、カイトのことをもっと知りたかった。

 だから、出来るだけ自分の翻訳機に、カイト語を登録しなければならないのである。

「おみそ汁以外は…いらないですか?」

 言葉を選びながら、慎重に口にした。

 不安は、まだ胸にいっぱいある。

 当初の自分の予測通りの答えだったら、どうしようという影がつきまとっているのだ。

 不定期に現れる外灯やネオンに、カイトの横顔が浮かび上がったり消えたりする。

 うまく表情が捕まえられないから、彼を見ていても不安が大きくなるばかりだった。

「いらねー」

 ちょうど車内が暗く陰った時に、不機嫌な強い返事が跳ね返ってくる。

 まだメイには理解出来ない範囲に、カイトは立っていた。

 質問を変えなければいけないようで、彼女は考えを巡らせる。

 出来るだけ自分の気持ちが沈んでしまわないように―― でも、どうしてもそっちに引きずられそうになりながら、こう聞いたのだった。

「おみそ汁以外は……おいしくないですか?」

 ドキン、ドキンと胸の音が聞こえる。

 どうしよう、どうしよう。返事がYESだったらどうしよう。

 心の中で考えないようにしても、鼓動が勝手にそれを呟く。

 何度も何度も何度も。

「うめーっつってんだろ!」

 返ってきたのは、メイの鼓膜をつんざくような怒鳴りだった。

 思い切りイライラした口調で、けれども、カイトはそう言ってくれたのだ。

 何度も同じことを言わせるな―― とでも言いたげだった。
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