冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ。

 よかった…。

 胸がジンとするくらいに、ホッとしている自分がいた。

 彼女の食事は、おいしくないワケではなかったのだ。

 料亭の食事はまずいという男なのに、メイが作る料理には、怒鳴ってでも「うめー」と言ってくれるのである。

 それが嬉しかった。

 一般論から言えば、信じられない事態だ。

 彼女を傷つけないようにと言ってくれているのは、最初から百も承知だ。

 けれども、彼はそういう言葉をくれる人ではないので、こうやってふとした時に聞くことが出来るとホッとする。

 自分の進んでいる道が、カイトにとってはイヤなものではなかった気がしたのだ。

 勿論、どうしてもイヤがられることはあるのだが。
 今日のあの服装のように。

 しかし、少なくとも料理に関しては、「するな」と言われた回数は、かなり少ないハズだ。

 本気で禁止されたのは、今日が初めてだし。

 ただ、しろと言われたこともなかった。カイトが言うハズもないことは分かっていたが。

 それなら――今日のみそ汁発言はどういう意味なのか。

 他の料理も、一応「うめー」と言ってくれているのに、昼はみそ汁だけでいいなんて不思議だ。

 昼飯を作れと言われるなら納得するのだけれども、みそ汁だけを限定されるなんて。

「本当に…おみそ汁だけ…」

「くどい!」

 もう一度確認をしようとしていたメイは、しかし頭ごなしに怒鳴られた。

 何で、みそ汁だけにこだわるんだろう。

 まだカレーなら分かる。
 彼の大好物らしく、夜中に勝手に食べていくくらいだ。

 それを作れと言われたら、好物だから、で決着がつくのに。

 もしかしたらみそ汁も好物なのだろうか。

 いろいろと考えているうちに、見知った門の前に到着するのだ。

 帰ってきたのである。
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