冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトはリモコンで門を開ける。

 その間、アイドリングだけはしているが、車の動き自体は止まっている。

 メイは、もう一度横を向いた。

 暗い門の前では、彼の表情はやっぱりよく分からない。

「何で…おみそ汁だけなんですか?」

 勇気を出して、もう一度。

 怒鳴りが怖くないワケじゃない。

 でも、本当に彼女を傷つけようとして怒鳴っているワケでないことは分かっていた。

 根気強く、彼という存在と付き合って知りたかった。
 もう一度怒鳴られるのは、覚悟の上だ。

 ばっと、顔がメイの方を向く。

 暗い陰影だけが、カイトが顔を歪めたことを教えてくれる。

 ただ、動物みたいなうなり声が聞こえて―― それを彼が言っているのだと、すぐには気づけなかった。

 うーっと、苦しそうなうなり声だ。

 門が完全に開いた。

 ぷいっと、カイトは前を向いてしまった。

 車を動かし始めたのだ。

 逆手で後ろに向かってリモコンを使うのは、門を閉めるため。
 車はゆっくりとガレージに向かった。

 でも返事はなかった。

 ギアがバックに入って、カイトは自分の座席を片手で掴むようにして後ろを振り返った。

 逆さまにすすむ車。

 でも返事がない。

 車が止まる。

 やっぱり返事が。

 エンジンが切れる。

 でも返事が。

「クソッ!」

 カイトはうめいた。

 ガレージの中でライトも消された。

 尚更暗くなった車内のおかげで、カイトの顔がこっちを向いたこと以外は、まったく情報がなくなる。

 じーっと、彼を見ていた視線が気に入らなかったようだ。

 しかし、ちゃんと答えて欲しかった。

 カイトという人を教えて欲しかったのである。

 メイは一生懸命答えを待った。

「ミソ汁なら!」

 声を張り上げるカイト。

 運転席のドアが開けられ、その声の最後の方だけが、ガレージの壁に反響した。
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