冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 それ以上の追求はやめた。

 せっかく自分のために作ってくれた料理を、また妙な誤解で台無しにしてしまいたくなかったのだ。

「そうか…」

 全然信じていない心のままで、カイトはそう言った。

「はい!」

 信じてもらえたと、こっちは理解したらしい。

 メイは、嬉しそうにお盆を持って自分の席に行くと、ご飯とみそ汁を置いた。

 座るかと思いきや、またお盆を持ったまま調理場に戻ってしまう。

 次に現れた時には、お盆も置いてエプロンもはずしてやってきた。

 そうして席につく。

 カイトは、ようやく箸を取った。

 じん、と身体にしみるみそ汁。

 いつ漬けたのか、どうやって漬けたのか、聞くに聞けない一夜漬け。

 ブロッコリーの緑も鮮やかなサラダ。

 昨日はこの家で、食事をしていないのだから。

 ほうれん草の中に卵を落として焼いてある。
 食べてみたら、胡椒がよく効いていてうまかった。

 それに、魚のみりん干し。

 確かに、一品一品は彼女の言うように手間はかかっていないだろう。

 しかし、どれもこれも魔法のようにすぐに出来上がる、とは思いにくかった。

 メイの料理の手際を見たことがあるワケではないが、何でもかんでも大急ぎ、というタイプではないことは知っているつもりだ。

 丁寧に作っているところを想像して、カイトは落ち着かなくなった。

 だから、みそ汁だけでいいっつったんだ。

 そういう不満が、胸をつくのである。

 本当にみそ汁しか作らないような人間であれば、カイトだって安心して言葉を言えるのだが、こういう状態になってしまうから、言いたくなかったのである。

 メイは、彼の許可にはりきってしまったのだ。

 はーりーきーるーなぁー。

 しかし、メイがあんまり嬉しそうなオーラをふりまいていたので―― それを口に出して言えなかった。

 いや、どんなオーラであろうとも、きっとそう言えなかっただろうが。

 そんな自分へのハライセに、がつがつと食べ物を押し込む男がいるだけだった。

 また、『うめー』と、ヤギみたいなことを言わされながら。
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