冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●92
 食事の時間はいつも静かだ。

 カイトの方を見ると、一心不乱に食事をしている。

 よっぽどおなかがすいていたのだろう。

 メイは、お茶碗を持ってご飯を口に運びながらも、ちらちらと彼を見ていた。

 こうしてみると、まるでやんちゃな男の子のようだった。
 とても、会社の社長の食べ方とは思えない。

 そういうのを見ると、ほっとする。

 お金も持っていて、こんな家も持っていて、パソコンも扱えて、会社の社長で―― この条件だけを並べると、とんでもなく近寄りがたい人に思えるのだ。

 実際、近寄りがたい人間なのだろう。

 それは、本人の性格的な要素が大きかったけれども。

 しかし、ご飯を食べている姿は、『うめー』と顔を顰めていう姿は、何となく中学生のようにも思えた。

 きっと、家でもこうだったのだろう。

 メイは、そんな空想を馳せていた。

 ハシを口の前まで持ってきたまま考えこんでいたのを、自分で気づかなかった。

 ふっと向かいの食べる音が静かになったのに気づいて、はっと焦点を合わせると、カイトが怪訝そうにじっと見ていたのだ。

 恥ずかしくなって、急いで口の中に冷え切ったほうれん草を押し込む。

 ガタッ。

 カイトは立ち上がって。

 何をするのかと目で追ったら、そのままジャーに向かうではないか。おかわりをしているのだ。

 嬉しさに目を細めようとしたメイだったが、ふっとあるものに目を止める。

 カイトは―― 彼は、口の横にご飯つぶをつけていたのだ。

 あっ。

 メイは、瞬きをして確認しなおした。間違いない。

 彼の口の横には、白いご飯つぶがくっついている。

 そんな可愛い失敗をするような人には思えなかったので、すごい親近感を覚えた。

 カイトが前よりももっと近くに来たような気がする。

 嬉しさに微笑んでしまいそうになった。

 ばか。

 しかし、すぐに慌ててそんな自分を叱咤する。
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