冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 確かに。

 うっかり本の上下を変えただけでも、彼にはバレてしまいそうな気がする。

 とても、不思議な存在だった。

 シーン。

 もう呼び鈴は鳴らず、静かな空間が戻ってくる。

 まだ。

 相変わらず、彼の口の横には。

 あ、とメイはそれを思い出した。

「あの…」

 声をかけると、間髪入れずに反応が返ってくる。

 あのグレイの目が、まっすぐに彼女を映したのだ。

 しかし、ご飯つぶが。

 何だ、とカイトの目が聞く。

 もしかしたら、怒鳴られるだろうかと思いながら、彼女は言おうと覚悟を決めて口を開けた。

「あの…ご…」

「よぅ!」

 その声と共にドアが開いた。

 突然の出来事に、はっと目を見開く。

 カイトは、身をひねって後ろを向いた。

「お昼時にごめんなさいねぇ」

 にっこり。

 この笑顔は。

「おっ、うまそうじゃないか」

 この声は。

 ガチャン!

 それは―― カイトが、食器を落とすかのようにテーブルに戻した音。

「すまんすまん、食事の邪魔をするつもりはなかったんだ。まさか、時間通りにお前が昼食を取っているなんて思ってもみなくてな」

 昔から、そうだったろ?

 2人は微笑みながら入ってくる。

 ソウマにいたっては、彼のすぐ側まで近付いてきた。
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