冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●10
 知らない男の人のベッド。

 メイは、毛布の中に潜り込んだ。

 知らない匂いがした。

 誰かがきちんとハウスキープしているに違いない、綺麗にノリのかかったシーツ。

 でも、長い間使っている人の、独特の匂いがあった。

 いままで、彼女が全然嗅いだことのない匂い。

 怖い。

 不安もあった。

 ベッドなんて、具体的な言葉が出てしまったのだ。

 もう覚悟するしか、覚悟――何か……違う。

 毛布のふちをよけて、そっと彼女を買った男を見た。

 つきまとう違和感が、ここでようやく形になってきたのである。

 何か、この人――違う。

 机のところに立っている素肌の背中を見ながら、メイは思った。

 何が違うんだろう。

 匂い?

 匂いも違う。

 目?

 目も違う。

 言葉?

 言葉なんて――全然違う。

 何かが違うんじゃないんだ、とそこでメイは思った。

 何もかもが、違うのである。

 男と女であることを飛び越して、彼と自分は違った。

 言葉なんかでは、埋められないくらいに。

 不安は山ほどあるのだが、ちょっとだけ分かったこともあった。

 自分にとってイヤなことを、彼はしていないのだ。

 何かされる、される――呪文のように、メイは思っていたけれども、どうだろう?

 いままで、自分がされたことを並べてみる。

 しかし、もうとっくにされていてもおかしくないようなことが、自分の身には降ってわいていなかった。

 だからと言って、カイトの意図が分かったワケではない。

 ただ、知らない男のベッドの中にもぐりこんだと言うのに、本当ならブルブル震えていてもしょうがないハズなのに、ぼんやりとカイトの背中を見ているのだ。
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