冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●94
 ええー!!!!!

 メイは、驚いて隣の席を見つめた。

 カイトがいる。

 彼は、確固たる意思を持った瞳でハルコを見て―― ついさっき言ったのだ。

『ダメだ』、と。

 2人で協力しあって彼女の妊娠期間を乗り切ろうという案は、雇い主の一言であっさり却下されてしまったのである。

 どうして?

 いま、カイトだって彼女に『やめるな』と言ったのだ。

 ハルコを必要としていることは間違いないのに、どうして続けるための努力はいけないというのだろうか。

 メイに働かせたくないのだと、彼が何故か思っているとしても、これは非常事態ではないか。

 何年も、ということではないのだ。

「あら、どうして?」

 疑問は、ハルコが聞いてくれた。

 伺うような目を向けられて、カイトは乱暴な顎の動きで向こうを向いてしまう。

 メイの位置からだと、もう表情は分からない。

「とにかく、ダメだ」

 カイトの答えはそれで。全然要領を得ない。

「それじゃあ、誰も納得できないだろう?」

 ソウマもあんまりだと思ったのか、身を乗り出すようにして答えを求めてくれる。

 メイだって理由を聞きたい。

 この空間で、カイト一人が三方から質問の矢に射抜かれていた。

「理由なんてどうでもいいだろ! とにかく、ダメなものはダメだ!」

 しかし、カイトはその矢を、力ワザではねのけようとするのだ。

「おいおい…」

 ソウマの苦笑など、彼のオーラはまったく受け付ける気配はなかった。

 強固な城壁を張り巡らせ、誰もここに入ってくるなと突きつけている。

「あ、あの!」

 それは分かっていたけれども、メイだって彼女を失うのは困るのだ。

 まだ、自分は余りに知らないことが多すぎる。

 そんな時に、気軽に相談の出来る相手が必要だった。

 家の事でもそうだし、精神的な面でもそうだ。
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