冬うらら~猫と起爆スイッチ~

『おめーは、何もしなくていいんだよ!』

 言いたいことは―― ソウマが口真似した言葉でパーフェクト。

 だから、余計に腹が立つ。

 ムカむかムカむかしながら、カイトはバシバシキーボードを叩いた。

 数人が出社していたけれども、誰も彼に声をかけてきたりしなかった。賢明な判断である。

 先日のルーチンを応用して、いくつもいくつもテスト用のサンプルを作った。

 しかし、コンパイルをかける度にエラーだらけで、訂正にイライラする。

 キーボード入力数と、完成度は反比例していた。

「あのー、社長…」

 随分たってから、ようやく声をかけられて。

「何だ?」

 まだ目つきが悪いままに、開発スタッフの一人を睨み上げる。

 だから声をかけたくなかったんだよ、というような苦い顔で彼は続けた。

「もうみんな帰りましたけど…社長はまだいらっしゃるんですか?」

 そうして、下の方だけ開いているブラインドを顎で指す。カイトは、目をやった。

 真っ暗だった。

 そうなのだ。

 いろんなことに神経を取られていて、カイトは太陽の位置などまったく気にも止めていなかったのである。

 向かいのビルの明かりが、まるでネオンのように見えた。

 慌ててパソコンの時計を見ると、九時少し前だ。

 あっ、とカイトは椅子から立ち上がった。

 こんなに長居をするつもりはなかったのだ。

 ソウマたちが帰っただろう夕方を見計らって帰るつもりだったのに、まさかこんな夜になっているとは。

 ぐぅ―― 腹の虫がメイを思い出したように鳴った。

 ばっと上着を掴んで、彼は早足で開発室を出る。

 わざわざ声をかけてくれた社員に一言もナシだ。
 それどころではなかったのである。

 メイが、心配していないハズがなかった。

 あんな状態でいきなり飛び出して、夜になっても帰ってこないのである。
 彼女のあの性格を考えれば、誰だって理解できるだろう。

 ついには廊下を走り出し、駐車場からバイクを引っぱり出すと飛び乗った。

 パトカーが見たら、喜んでついてきそうな速度でぶち抜いて。

 ようやく、彼は家路についたのだった。
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